ワンボスモデル vs   ツーボスモデル

命令系統一元化の原則を無視

 大学院生のころ、経営学の大家と次のような会話をしました。

 「こんな図を核にあんて、君は経営学の常識がないと思われても仕方がない」

 「これは、マトリックス組織かどうかを聞いた質問なのですが、先生のご本人にも解説が書いてあると思います。」

 「何言って入り生んだ。マトリックス組織というのはマトリックスに組織が書いてあるからマトリックスなんだ。」

 「先生は1977年に出版されたデイビスとローレンスの有名な「マトリックス」を読まれたことはないのですか?

 あの本の中ではツーボス・モデルこそがマトリックス組織とか至るのですが、実際にこの図を使って調査をしたら、36%の

 企業がこの図のような組織だと答えたんですよ。」

 「だから日本企業は前近代的で遅れているとわれわれは批判しているんだ。アメリカの経営学の教科書を読んでみろ。どの教科書にも書いてある有名な命令系統一元化も知らないのか」

 「その原則に反して作られているんからこそ、マトリックス組織は注目されているのですよね。デイビスとローレンスの「マトリックス」の中では、実態としてマトリックス組織を実現・運営して成功しているのは日本企業であるとまではっきり書いてありますが…」

(高橋伸夫「虚妄の成果主義」(2004年)より)

 

1969年に米国のアポロ11号が月に着陸するのだが、米国のNASA(National Aeronautics and Space Administration; 航空宇宙局)は、このアポロ計画に関係した米国の航空宇宙産業の企業に対して、研究開発契約の受諾条件として、プロジェクト管理方式を課したことに端を発してプロジェクト組織の導入が始まったといわれている。このことで、従来からの縦割りの職能別(たとえば総務、経理、購買、製造、販売等)のピラミッド型の組織に、プロジェクト別にマネジャーが置かれ、プロジェクト・チームという横串を刺したような編成が行なわれるようになったのである。

 こうして、航空宇宙産業に代表されるようなプロジェクトで仕事をしてきた企業では、ピラミッド組織を基本としながらも、新しいプロジェクトに対しては、そのピラミッド組織に重複、横断する形でプロジェクト・チームを組織して、ひとたびプロジェクトが終了するとプロジェクト・チームを解散し、構成メンバーをピラミッド組織の本来の所属に戻すというやり方で、一時的ではあるが複元的な命令系統がみられるようになった。

 つまり、プロジェクト・チームというのは、もともと一時的に設置されるもので、プロジェクトが完成されれば解散する性質のものである。それが恒常的に持続されるようになった、というのがマトリックス組織なのである。こうした発展段階を経て、米国の宇宙開発が盛んだった1960年代の航空宇宙産業においてマトリックス組織が誕生したといわれている。